正社員にならずに、フリーターやニートという形を選ぶ人が増えている。どちらかというと否定的に使われることの多いこれらの言葉。しかし、そもそも正社員とは何なのか。今回は、働くことをめぐる現在の苛酷な状況に一つの希望を与えてくれる本として、
『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』ダニエル ピンク (著)
(原著:
『Free Agent Nation: The Future of Working for Yourself』)

を紹介したいと思う。
まず冒頭で、驚くべきデータが提示されている。アメリカでは既に3,300万もの人が誰にも雇われることなく仕事をしているというのである。これは実にアメリカ国内で働く人の4人に1人という割合だ。このように組織に属することなく、在宅やスモールオフィスで独立して仕事をする人たちを「フリーエージェント」と呼んでいる。
これまで何十年にわたってアメリカ経済を象徴してきたのはオーガニゼーションマン(組織人間)だった。組織のために個性を犠牲にするかわりに、まずまずの給料と年金、そこそこの家を与えてくれる仕事に就く人たちのことだ。しかし、オーガニゼーションマンからフリーエージェントへの移行は経済と社会に起きている根本的な変化だと著者は言う。
では、フリーエージェントたちの労働倫理とは一体どんなものだろうか。ここで著者は、そもそもこれまでの労働倫理とはどのようなものなのかというところから考えている。建国以来アメリカを支配してきたカルヴァン主義の労働倫理は、大雑把に言えば、「長い間働けば最後は報われる。そういう生き方は楽しくないかもしれないし、嫌だと思うこともあるだろう。それでも元気を出してコツコツ働いていれば、最後にはご褒美が待っている。仕事は楽しいこともあるだろうが、基本的には快楽と対極をなすものである。それでも仕事に打ち込むのが人として好ましいあり方だ」といった感じだ。
しかし、フリーエージェントたちの仕事に対する価値観は全く違う。著者ダニエルピンクのインタビューに対して彼らは次のように答える。
「働く必要があるときは、一生懸命働く。そしてできるだけ仕事を楽しむーサラ・ジャラリ(テキサス州ダラス)」
「どういう仕事をするかは自分で決める。一番やりがいがあって、わくわくするような仕事をすることにしている。(略)ーダイアン・ジェイコブ(カリフォルニア州オークランド)」
「満足感を得られる仕事を選ぶ自由がある。満足感と言っても、毎日が楽しくて仕方ないというのとは違う。でも、週や月、年の終わりにそれを振り返ったときにーそうすることができるのも一つの自由だー「いい仕事ができた」とにっこり笑うことができるんだーロイド・レモンズ(テキサス州オースティン)」
といった感じだ。
こういった言葉を「甘い」といって片付けてしまいたくなるなら、その人はそれだけカルヴァン流の価値観に毒されてしまっているということなのかもしれない。雇用という形態は産業革命以降に生まれたもので、それ以前は働く場所と家族が生活する場所が同一だった。人類の長い歴史から見渡せば、むしろ現代の労働スタイルのほうが特異だとも言えるのである。組織から離れて自分の家やその近所で働くフリーエージェントのスタイルは、人の働き方が再び産業革命以前の形へ戻ることを意味すると著者は指摘している。
しかし一方で、著者は社会のフリーエージェント化をはばむ要因についても触れている。例えば健康保険がその一つで、公的健康保険制度のないアメリカでは、企業を通して健康保険に入ることが一般的だ。雇用という枠から外れるフリーエージェントたちは当然その恩恵の対象外となるわけで、そのことからフリーエージェントへ踏み出せない人もいるという。また、同じフリーエージェントにもタイプがあって、才能と意欲に溢れどんどん稼いでいくフリーエージェントがいる一方で、臨時社員といった形で低賃金かつひどい環境での労働に甘んじざるを得ない人も多くいるといった点を指摘している。
しかし、それでもフリーエージェント化の流れが止まることはないだろう。本書でも指摘されているように、インターネットと低価格が進むパソコンがその流れを今後も強力にバックアップしいくはずだからだ。
冒頭に話を戻せば、フリーターやニートたちこそフリーエージェント社会に最も近い存在なのではないだろうか。そう考えれば、今は事態が好転に向かう前の産みの苦しみの時期であり、最後に解説で玄田有史も言っているように、むしろこの状況に対し楽観的に構えるべきのかもしれない。
著者ダニエルピンクが本書で引用しているボブ・ディランの唄の歌詞はフリーエージェントへ踏み出そうとする人の背中を強く押すだろう。
−「成功したと言えるのは、朝起きて、自分のやりたいことをやれる人だ」−
(了)
posted by stock-and-flow at 01:49|
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ダニエル ピンク
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