2005年07月11日

『空港にて』村上 龍 (著)

 
4167190060空港にて
村上 龍

文芸春秋 2005-05
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 ここ2週間、村上龍漬けの生活を送っている。時事には直接関係ないが、日を分けて、幾つか彼の作品を紹介していこうと思う。
 まずは最近文庫化された短編集『空港にて』から。コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム、結婚披露宴会場、クリスマス、駅前、そして空港。閉塞感たちこめる今の日本を象徴するような場所を舞台に、ほかの誰のものでもない、その人固有の希望をつかもうとする人たちをシャープに描いた短編集だ。もとは幻冬舎の留学情報誌のために書かれた作品群ということもあり、留学のために海外に出て行く人物を主人公にしたものが多い。
 コンビニ、居酒屋、カラオケルーム、駅前など、一見、物や賑やかさに溢れているようで、実は匂いも手触りもないそれらの平坦さを正確に描写することで今の日本の閉塞感を喚起させる力はさすがだ。
 なお、この本は『どこにでもある場所とどこにもいないわたし』を文庫化にあたり改題したもの。文庫版の空港ロビーを写した表紙写真も結構いいです。<了>
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2005年05月30日

『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』ダニエル ピンク (著)

4478190445フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか
ダニエル ピンク Daniel H. Pink 池村 千秋

ダイヤモンド社 2002-04
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正社員にならずに、フリーターやニートという形を選ぶ人が増えている。どちらかというと否定的に使われることの多いこれらの言葉。しかし、そもそも正社員とは何なのか。今回は、働くことをめぐる現在の苛酷な状況に一つの希望を与えてくれる本として、『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』ダニエル ピンク (著)(原著:『Free Agent Nation: The Future of Working for Yourself』を紹介したいと思う。
まず冒頭で、驚くべきデータが提示されている。アメリカでは既に3,300万もの人が誰にも雇われることなく仕事をしているというのである。これは実にアメリカ国内で働く人の4人に1人という割合だ。このように組織に属することなく、在宅やスモールオフィスで独立して仕事をする人たちを「フリーエージェント」と呼んでいる。
これまで何十年にわたってアメリカ経済を象徴してきたのはオーガニゼーションマン(組織人間)だった。組織のために個性を犠牲にするかわりに、まずまずの給料と年金、そこそこの家を与えてくれる仕事に就く人たちのことだ。しかし、オーガニゼーションマンからフリーエージェントへの移行は経済と社会に起きている根本的な変化だと著者は言う。
では、フリーエージェントたちの労働倫理とは一体どんなものだろうか。ここで著者は、そもそもこれまでの労働倫理とはどのようなものなのかというところから考えている。建国以来アメリカを支配してきたカルヴァン主義の労働倫理は、大雑把に言えば、「長い間働けば最後は報われる。そういう生き方は楽しくないかもしれないし、嫌だと思うこともあるだろう。それでも元気を出してコツコツ働いていれば、最後にはご褒美が待っている。仕事は楽しいこともあるだろうが、基本的には快楽と対極をなすものである。それでも仕事に打ち込むのが人として好ましいあり方だ」といった感じだ。
しかし、フリーエージェントたちの仕事に対する価値観は全く違う。著者ダニエルピンクのインタビューに対して彼らは次のように答える。
「働く必要があるときは、一生懸命働く。そしてできるだけ仕事を楽しむーサラ・ジャラリ(テキサス州ダラス)」
「どういう仕事をするかは自分で決める。一番やりがいがあって、わくわくするような仕事をすることにしている。(略)ーダイアン・ジェイコブ(カリフォルニア州オークランド)」
「満足感を得られる仕事を選ぶ自由がある。満足感と言っても、毎日が楽しくて仕方ないというのとは違う。でも、週や月、年の終わりにそれを振り返ったときにーそうすることができるのも一つの自由だー「いい仕事ができた」とにっこり笑うことができるんだーロイド・レモンズ(テキサス州オースティン)」
といった感じだ。
こういった言葉を「甘い」といって片付けてしまいたくなるなら、その人はそれだけカルヴァン流の価値観に毒されてしまっているということなのかもしれない。雇用という形態は産業革命以降に生まれたもので、それ以前は働く場所と家族が生活する場所が同一だった。人類の長い歴史から見渡せば、むしろ現代の労働スタイルのほうが特異だとも言えるのである。組織から離れて自分の家やその近所で働くフリーエージェントのスタイルは、人の働き方が再び産業革命以前の形へ戻ることを意味すると著者は指摘している。
しかし一方で、著者は社会のフリーエージェント化をはばむ要因についても触れている。例えば健康保険がその一つで、公的健康保険制度のないアメリカでは、企業を通して健康保険に入ることが一般的だ。雇用という枠から外れるフリーエージェントたちは当然その恩恵の対象外となるわけで、そのことからフリーエージェントへ踏み出せない人もいるという。また、同じフリーエージェントにもタイプがあって、才能と意欲に溢れどんどん稼いでいくフリーエージェントがいる一方で、臨時社員といった形で低賃金かつひどい環境での労働に甘んじざるを得ない人も多くいるといった点を指摘している。
しかし、それでもフリーエージェント化の流れが止まることはないだろう。本書でも指摘されているように、インターネットと低価格が進むパソコンがその流れを今後も強力にバックアップしいくはずだからだ。
冒頭に話を戻せば、フリーターやニートたちこそフリーエージェント社会に最も近い存在なのではないだろうか。そう考えれば、今は事態が好転に向かう前の産みの苦しみの時期であり、最後に解説で玄田有史も言っているように、むしろこの状況に対し楽観的に構えるべきのかもしれない。
著者ダニエルピンクが本書で引用しているボブ・ディランの唄の歌詞はフリーエージェントへ踏み出そうとする人の背中を強く押すだろう。
−「成功したと言えるのは、朝起きて、自分のやりたいことをやれる人だ」−
(了)     
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2005年04月18日

『新・憂国呆談―神戸から長野へ』 浅田 彰 (著), 田中 康夫 (著)

田中康夫が神戸で震災ボランティアを行った年から今年でちょうど10年が経つ。
彼が長野県知事に初当選して以来、大手メディアは議会と組むようにして田中康夫へあの手この手の攻撃を加えている。しかし、それらの攻撃には果たして正統性があるだろうか。
今回は、彼が知事になる以前から続いている浅田彰との対談『憂国呆談』シリーズを読み、田中康夫の強さとは何かを考えてみる。

<書評>:「11年目の田中康夫」
この『憂国呆談』は、掲載雑誌を転々としながらも、現在『週刊ダイヤモンド』で連載されている田中康夫と浅田彰の対談だ。
この中で田中康夫がしばしば口にするのが「是々非々」という言葉だ。簡単に言えば、ある人間を評価する際、その人物の「属性」をもとに判断するのではなく、その人物がとった「行為」をもって評価する姿勢のことだ。例えば、三井物産戦略研究所の寺島実郎に対してなら、かつて彼が毎日新聞で改憲論を論じた際には批判を加えた一方で、イラク戦争をめぐって、「日本国憲法は制約ではなく、戦争で真の解決がもたされるはずもないということを伝えるべき普遍的理念だ」とコメントした寺島に対しては「ブリリアント」と田中は評価する。この是々非々の姿勢は徹底していて、盟友で当の対談相手である浅田彰に対してさえ、ケースによっては、本人を前にして「阿呆」呼ばわりしたこともあるほどだ。
行為で人を評価するというのは、なかなか骨の折れることだ。人を属性で判断しないことで、その人間に対する硬直した見方を退けつつ、絶えず行為を吟味することによって、場合によっては評価を修正する余地が残るからだ。しかし、この姿勢こそ田中康夫自身が言う「しなやかさ」の本質に当たる部分なのだろう。本来こういった姿勢はメディアにこそ求められるべきものだが、硬直した視点でしか物事を捉えられない既存のマスメディアにはそのことが理解できない。

対談は政治から経済、文学、映画、アート、スポーツから芸能界まで全域をカバー。2人の毒舌には容赦がないが、議論自体がシャ−プかつ真っ当だから、読んでいて気分がいいし、何よりこの2人には華がある。Web版http://dw.diamond.ne.jp/yukoku_hodan/とあわせてお薦めだ。

新・憂国呆談―神戸から長野へ
浅田 彰 田中 康夫

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憂国呆談リターンズ ― 長野が動く、日本が動く
田中 康夫 浅田 彰

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2005年02月20日

『稼ぐが勝ち ゼロから100億、ボクのやり方』堀江 貴文 (著)

ライブドアによるニッポン放送の株取得が話題になっている。
そこで今回は、ライブドア社長の堀江貴文氏のベストセラー、
『稼ぐが勝ち ゼロから100億、ボクのやり方』を読み、彼の哲学を探ってみる。

<書評>
 これはとても良心的な本だ。中でも、読んでいて特に印象に残ったのは次の箇所だ。

「就職とは、他人のリスクコントロールの支配下に入るということです。要するに自分の運命を他人に支配されるわけです」(P42,l12)

 雇われて働くことについて、これほど明晰に表現できる彼はやはり相当な切れ者だろう。
世の中には搾取してお金持ちになる人間とだまされて貧乏になる人間がおり、自分で会社を起こさない限り、搾取の対象になるのは一生まぬがれない。だからこそ、他人に支配されなくても済むように会社をつくり、自分のリスクコントロールの下に会社を運営していると堀江氏はこの本で述べている。
 資本主義が持つこの明白な仕組みについて、それを教えてくれる本というのは案外少ない。学生を対象にした就職活動の本にしても、「働くことの意義」や「自己実現」などを強調したものばかりで、そもそも就職することがどのようなシステムへの参加を意味するのかということついてはまず教えてくれない。そんなことを教えて若い学生に起業されるよりも、「働くことの意義」や「自己実現」で適当にお茶を濁しながら、安い給料で働いてもらう方が企業にとっては都合がいいからだ。
 こういったことに早く気づけと堀江氏は述べているのである。その意味でこの本は良心的なのだ。
稼ぐが勝ち ゼロから100億、ボクのやり方
堀江 貴文

光文社 2004-08-07
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